《スケート大会報告書》 その4
【前回までのあらすじ】
たばたばの導きによって今まさに中華街という名の秘境に迷い込んださだ研一行! そこで彼らが目撃した物とは!!!!!
第八章 『一同萎縮入場編』
「ええええええっっ?!」
素っ頓狂な声をあげる我々一同。
無理もない。その店は数多くの中華料理店が並ぶこの横浜の中華街の中でもひときわ豪華でひときわ高そうであった。
どれくらい豪華であるかは筆者の拙い文章力で表現するにはかなり困難をともなうが、あえて描写するならばこうである。
豪華。
豪華。
豪華。
豪華。
さらに、豪華。
さて、筆者は既にその店の店名を忘れている。たしか、『○○閣』とか、『○○楼』だとか、そういう類の仰々しい名前の店名だったはずだが、どうしても記憶が蘇ってこないので、取り敢えずその店を『通天閣』(仮名)と呼ぶことにしよう。
それはさておき。
「お、おい、大丈夫か、たばたば」
『通天閣』から発せられる威圧感に、うろたえる一同。とても、学生が連れ立って入るような雰囲気ではない。
「任せろ。俺の行きつけの店だ」
たばたばはそう言うと『通天閣』に入っていった。
たばたばが入ってしまったからには仕方がない。我々も覚悟を決めて、たばたばの後をついていった。
ういいーん。
気のせいか自動ドアの開き具合からして重々しい。
「いらっしゃいませ」
「うおおおおおおっっっ!!」
第九章 『静寂沈黙待機編』
我々はいきなりビビった。なぜなら、入ったロビーがいきなり広い。しかも、吹き抜けなのである。
そして、それだけではない。我々に「いらっしゃいませ」と現れたのはタキシードを着こなした初老の紳士ではないか。
この三段攻撃に我々はもう骨抜きである。もう場違いなのはこの上なく甚だしい。
「な、この店はやめよう。な、な、な」
そう賢明な提案をするスガオ君。一同はカクカクと頷いた。
そうこう話し合いをしている我々のもとに老紳士は近づいてきてこう言った。
「何名様でしょうか」
「あ、八名です」
「ちょ、ちょっと待て、こらぁーッ!!」
老紳士の問いに涼しげな顔でたばたばが答える。俺たちの会話などなーんにも聞いちゃいねえ。
「申し訳ありません。当店はただいま大変混んでおりますので、20分ほどお待ち頂くことになりますが……」
「わかりました」
たばたばはそう言い捨てると、すたすたとロビーの一角にある待合所へと去っていった。その後をシクシクと泣きながら我々がついていく。
さて、待合所であるが、椅子がまた豪華である。青を渋くしたような色調の椅子で、なんと石(御影石かな?)で出来ている。ひんやりとした感触が心地よい。そして、おまけにこの椅子がデカい。ちょっと窮屈だが二人が並んで座れるぐらいの幅がある。まさに贅沢の粋を尽くした椅子である。
そこへ、トイレに行っていたたぬたぬが帰ってきた。どうも、様子がおかしい。
「どうした、たぬたぬ」
「ト、トイレが……は、派手……」
「な、なに——っ!!!」
ドタドタバタバタ
トイレに向かって一目散に駆け出す八人。傍から見ると珍妙な光景である。
ウィ——ン
「おお——っ!!!」
パチパチパチ
もはや驚きを通り越して感動すら覚える我々であった。
まず、個室がデカい。さらに便器もデカい。落ちそうである。うん。
壁はさっきの椅子と同じく渋い青色の御影石である。そして、なんとトイレットペーパーを引っかけるあれが金色でできている。ここまで徹底して派手に決めてくれると、我々の方も気持ちがよい。
いやー、いいものを見せてもらった。よかった、よかった。と、肩を叩き合いながら一同はロビーへの帰途についた。
さて、再びロビーに戻ったところで、M氏がたばたばにこういう質問をした。
「なあ、この店って大体一人どれくらい払えばいいんや?」
すると、たばたばは狐につままれたような顔をして、
「え? 知らないよ」
「だ、だって、この店は行きつけの店だって言うたがな。この前来たときはなんぼ払ったんや?」
「いやあ、ここには親と2、3回来たけど、いっつも親が払ってたから、いくらぐらいするのか全然知らない」
「で、でも、中華街の相場って、どれくらいするかは知ってるやろ?」
しかし、M氏の問いにたばたばは非情にも首を左右に振ったのであった。
ガ——ン。
たばたばを除く我々は顔面が蒼白になった。
それからテーブルにつくまでの5分間はまさに地獄の如き時間であった。
アラインは辺りを見渡し、万が一のための逃走経路を調べていた。さすが年長者。冷静さは欠けていない。
ノンノは鞄からスケート靴をとりだし、足に履いた。既に逃走態勢に移っているという訳だ。
イザリンは鞄から目薬を取り出し、右の掌にそっと忍ばせた。いざという時の泣き落とし作戦である。
ロビーがしーんと静まり返る。まるで、死刑執行を待つ囚人たちのようだ。
そして、運命の時はやって来た。
最終章 『絢爛豪華会食編』
ウェイターに先導されて、テーブルにつく一行。
椅子に座るなり、我々は群がるようにしてメニューを取った。
そして、先を争うようにしてメニューを開く。
「!」
おお! メニューにきちんと値段が書かれているではないか。しかもリーズナブルな値段である。これが、メニューに「時価」とでも書かれていたら一同の青い顔はますます青くなっていたことだろう。
それぞれの心が安堵感で満たされ、我々はほっとため息をついた。
しかし、しかしである。リーズナブルな値段と言っても、所詮中華街の料理店である。一品、3000円は下らない
アラインを始めとする東京勢、および地方勢(含海外)は既に余裕を取り戻し、食事を楽しむ態勢に入っている。
だが、著者、ノンノ、M氏の三人はついついメニューの値段表と首っ引きで『今、一人あたり何千何百円を払えばいいんだな』と、頭の中で計算しながら注文してしまうのであった。ああ、悲しき大阪人の性よ。
ということで、蛙の料理とか色んな物を食べはしたが、著者は値段ばかりが気になって味の方はよく覚えていない。ひどく残念である。
で、気になるお値段の方であるが、腹八分目ぐらい食べて、デザートまで食べて、一人当たり¥4000。まあ、妥当な値段であろう。八人合わせて1000円余ったので、それはその後の宴会費に回した。
ちなみに宴会は駒場寮のM氏の部屋で行うので、思いっきり飲んで食って一人800円。すんげえ安い。
こうして、一行は『通天閣』を後にし、危険と波瀾に満ち溢れたさだ研の一日は終わった。しかし、これから駒場寮で夜を徹してのど宴会が行われる。がんばれ、さだ研! それ行け、さだ研! 栄光を掴むその日まで!!!!
—完—
SUMIKAWA Munechika / Daydreamers On the Net