モンプチの章 第二話


 時は銀杏祭のことである。
 マンデル(本名)が涙ながらに寄付してくれた二年生への差し入れの中になぜモンプチが混入されていたかについては、 未だに謎という名の霧に包まれたままである。 しかし、とにもかくにも買物袋の中のパンやおにぎりの山にうず埋もれるようにしてモンプチ舌平目味が鎮座ましましていたのはまぎれもない事実である。
——これは何かゲームを考えなくてはならない。
 歴史的な慣行に従うのであればUNOで勝負をつけるべきなのであるが、あいにく手元にUNOはない。では、どうすれよいか……
 友人と共におのぼりさんよろしく大型計算機センターでオニキスを見た後、 ひたすら巨大なレーザー発生装置を見学し、 さわらびでスパ大を食し、 工作センターで阪大キーホルダーをもらい、 液化窒素で草を凍らせて遊び、 謎の生物マチカネワニを見た私の灰色の脳細胞の中をあらゆるゲームが浮かんでは消えていった。
 ふと私の目に入ったのは一台のゲーム機であった。ぷよドライブ(愛称)である。 このマシンは輸送時には必ずハンダとハンダごてを携帯しないとマトモに動作しないという世にも稀なマシンである。
 ぷよぷよで勝負するべきであろうか。いや、ぷよでは各プレイヤー間に実力差がありすぎて、反対者がでるであろう。
 そこで私は名案を思いついた。
 タントアールである。このゲームは正にこういう勝負をつけるに相応しい。
 種目はその中でも最もシンプルな「ストップウォッチ」で行うことになった。
 そして数分後、私の頭の中でルールが決定した。
 基本的にはトーナメント方式であるが、 勝負に負けた方が次の勝負に進んでいくことになる。 よって、私はこれを逆トーナメント方式と命名し、表を逆さまにした。
 さて、具体的なルールであるが、 タントアールのルールに則って、 9秒91〜10秒00でストップウォッチを止めた方を勝ちとする。 二人ともその範囲内に止めた場合はもう一度勝負のやり直し。 決着がつくまでやり続けるサドンデス方式を採用した。
 また、片方が9秒90以下でもう片方が10秒01以上のときは、 後者を失格として、前者の勝ちと見なす。
 そして1位の人間に対し、モンプチを3分の1、 2位の人間には6分の1を名誉ある賞品として提供されることとした。
 ルールが決まれば、次に参加メンバーの選択である。
 当初、私は銀杏祭りに来ていた部員を全員参加させようと目論んでいたのだが、 現学祭係に「邪魔しないでください」と思い切り睨まれてしまった。 こうなっては何の権力もない上級生としてはおとなしく引き下がるほかないのである。 怖い学祭係だ。
 さて、こうして全員をこの生臭い罠にはめるのは大変困難であることが判明したため、 新たな人選法を考えなければならなくなった。
 良く考えたらこのゲームは勝っても何のメリットもないので、 進んでゲームに参加するやつはよっぽど物好きで酔狂な連中だけなのである。
——さて、どうしたものか。
 ふとぷよドライブを見ると、数人の人間が群がっている。 ルールを聞いた連中が本番に向けて猛特訓をはじめているのだ。 「よーし、決まった。一回でもタントアールの練習をしたものは全員参加」
 何人かが反論の声を挙げたが当然無視した。 慌てて練習を始める君達が悪いのだよ、フッフッフ。
 それにも関わらず最後まで頑として参加しなかった付き合いの悪い男も約一名いたのだが、 彼の名誉のためにここでは名前をあげないでおこう(ヒント、元副部長)。
 そして、クジ引きが終わり、トーナメント表が作られた。
 ゲームが始まる。
 カルカンが賭かっているだけに緊張する。 練習では100発100中で成功していたやつもプレッシャーに押しつぶされて敗退していった。
 ゲームが進むにつれて今まで一分の隙もなさそうに見えたこのルールに重大な問題点が含まれていることが判明した。
 このルールでは逆トーナメント方式で進んでいくため、弱い方がどんどん負け進んでいくことになる。 つまり、二回戦、三回戦とゲームが進むにつれて下手糞同士が戦うことになり、 決勝戦では最弱の二人がその座を競うことになるのである。
 これは、盛り上がらない。
 1回戦では毎試合サドンデスになる緊迫した試合が続いていたが、 準決勝、決勝ではほとんど一発で勝負がつく。 もしくは、二人とも失敗するのである。 よく考えたら不戦勝って不利なのね。変なルール。
 こうしてマヌケな戦いが繰り広げられたあと、二人の弱者が残った。
1位がげいとうぇい(仮名)で、2位が私である。 ぬう、相手を惑わせようと色々と話しかけていたら、墓穴を掘ってしまったわい。
「じゃあ、とりあえず2位の私から」
 と、私はモンプチに手を伸ばした。
「待て待て、念の為にジュースを買ってこよう」
 CGAコンテストのときの『セントリス(仮名)の悲劇』を思い出したのか、 波平(本名)が慌ててコーラを買いに走った。
 こうして、モンプチの横には第二戦の分を含めて、 二本のコーラが並んだ。うむ、モンプチにコーラはよく似合う。
「では、改めて」
 モンプチの蓋を開ける。 相変わらず艶やかでいかにも生臭そうな光沢を放っている。 私はコーラのプルトップを引き、 いつでも飲み下せる態勢にしてから、 モンプチの6分の1を口に放り込んだ。
 私は全員の注目が集まる中、モンプチを嚥下した。
 やっぱり生臭い。
 その生臭さは私の拙い文章で到底表しきれるものではないが、 あえて文章化すると以下の通りである。
 生臭い。
 生臭い。
 生臭い。
 さらに、生臭い。
 しかし、味自体はカルカンよりもまずくはないように思える。 おいしいように思えるのではないぞ、念の為。
 2回目で舌が麻痺しているのでは決してないはずだ。 確かにマイルドな感じがする。 値段が10数円カルカンより高いためであろうか、 それとも「カツオ&マグロ」ではなく「舌平目」を使用しているからであろうか。
 次にげいとうぇいが3分の1に手をつけた。
「先に言っとくけど、モンプチを全部飲み込むまでコーラは禁止」
 彼は猫まんまバージンなので、 体がちゃんと受け付けるかどうか危惧したが、無事のモンプチを飲み込んだ。  そして第二回戦。
 ゲーム内容は一回戦と同様マヌケな戦いが繰り広げられた。
 結果は、やまぷ(仮名)が一位、波平(本名)が二位であった。
 波平は過去にカルカンを食してきた修羅なので、モンプチを悠々と平らげた。 経験は人を成長させるようだ
 さて、やまぷである。
 彼もまた、前回のカルカン杯争奪UNO大会のときは無敗を誇っていたので、 げいとうぇいに続く猫まんまバージンである。
 しかし、彼は無表情に残りのモンプチを食べ尽くした。 その冷徹な顔からはモンプチに関するどんな感情も伝わってこなかった。 だが、彼は後にこう語っている。
「混み上がってくるモンプチをコーラで必死に流し込んだ」
——こうして我々の戦いは幕を閉じた。 しかし、第三、第四の猫まんまが再び我々の前に立ちはだかるはそう遠い未来のことではないだろう。 既に合宿での夜の宴会にモンプチの生け造りを作るという「OUCCの鉄人 -モンプチ編-」の企画も出ている。 行け、OUCC! 戦え、OUCC! 廃部になるその日まで猫まんまを食べ続けるのだ!!



SUMIKAWA Munechika / Daydreamers On the Net